仲座栄三 新力学研究所
2021年07月01日

天皇陛下 「国連の水と災害に関する国際会議」にて英語による基調講演

The emperor gave a keynote speech in English at the United Nations International Conference on Water and Disasters.

NHKニュースは、「天皇陛下が、6月25日夜、お住まいの赤坂御所からオンラインで国連の国際会議に出席し、国連のグテーレス事務総長などのあいさつに続いて、英語で基調講演を行われた」ことを伝えています。

インターネットでは、以下のサイトでその講演のご様子を見る事ができるようです。

https://www.youtube.com/watch?v=iy61QpHfyrM

ご講演内容の中でも、特に、私が注目いたしましたのは、沖縄の宮古島や八重山島を襲った明和津波に関するご説明です。

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ここで、明和大津波と牧野清氏との係わりについて、簡単に説明しておきます。

明和大津波は、西暦1771年4月24日に発生し、約1万2千人もの犠牲者を出しており、この津波によって八重山諸島の人口のおよそ1/3が犠牲になっている。明和大津波の災害の様子は古文書「大波之時各村之形行書」に詳しく収められている。その存在が広く世に知られたのは、石垣島の郷土史家「牧野清」による「八重山の明和大津波(1968年)」そしてその改訂版である「改訂増補 八重山の明和大津波(1981年)」が出版されたことによるところが大きい。牧野氏は、古文書記録を丹念にそして体系的に分析し、現代の科学の目で見ても正しい解釈を与えている。被災した人口の総合的分析、男性よりも女性の方が津波災害に対して弱いという事実、津波の遡上高の分布、等々が明らかにされている。特筆すべきは、津波によって引き流された巨大な石の分布を現地調査により丹念に調べ上げて、それらの石に「津波石」と名づけその分布図から巨大津波の威力のすさまじさと三次元的な津波遡上の様を説明したところは先駆的な仕事として評価されよう。津波石の中でも、石垣島大浜の崎原公園の西北隅にある最大級の大きさの大石に、当時、名前の付いていないことにおどろき、それに「津波大石」と名づけたことも特筆されるべきであろう。また、牧野氏は、初版の後に、恩師である八重山史の研究の父と呼ばれている喜舎場先生の手元に存在した古文書「奇妙変異記」が「形行書」の末尾に当たることを発見する。これに、牧野氏が命名した大浜の「津波大石」、これに関連する「高こるせ石」や「こるせ御嶽」のことが記載されていることを説明している。ここに、高こるせ石について「著者註 隆起サンゴ礁によって出来た壁岩の一部であったと思われる」と説明しているところも注目に値しよう。

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ビデオによる説明で拝見される陛下のご説明は、明和津波について詳しく丁寧に説明されているところが非常に印象的であった。

ところが、私としては、誠に残念至極と感じられる点がいくつか存在したことも事実である。これは、天皇陛下のご説明に足りないところがあったというようなことではまったくなく、たぶんに陛下に説明された方々の解釈あるいは資料内容の狭隘さに基づくものであろうと推定される。その問題点をいくつか挙げる。

1)「高こるせ石」についての説明図や説明について、古い解釈によるものであり、その問題点がすでに指摘され、より信憑性の高い説明がいくつもの証拠を挙げて説明されていることが考慮されず、「最近の研究の成果であり、石の位置、形状や寸法が、古文書の説明と一致する」と説明された点。

2)大浜の「津波大石」の説明がなされなかった点。世界最大級の津波石という位置付けでは、宮古島の「帯大岩」、そして「津波大石」の紹介が値すると思われるが、なぜか「バリ石」の写真が用いられた点。

寸分の誤解も招かないように、いま一度繰り返しておきたいと思います。天皇陛下のご説明には幾分かの問題もあり得ません。提供された資料や説明に誤りがあった。それも知っていながらの確信的行為があったということであり、大罪に当たる。天皇陛下からもご説明のありました牧野清氏は、こうした誤った説明に対して身を削り激しく反論し続けた。しかしながら、牧野清氏は多勢に無勢、執拗に続く論争に、そして専門家という無用な権威にも押され、失意の内に他界された。誠に残念至極は、明和大津波の実態を天皇陛下からご説明されることが、どういう意味を持つのかを理解できない者の、理解の狭隘さにある。

宮古島及び石垣島に甚大な災害をもたらした明和津波から、今年は丁度250年の節目の年を迎える。このような節目に、日本国の天皇陛下から、沖縄地方で発生した(恐らく)世界最大規模の大津波の実態と教訓の説明がなされたことは、日本国のみではなく世界において、巨大津波災害への備えに対しての大きな意味付けが与えられたものと思います。

国連の国際会議の場において、天皇陛下から「明和大津波」の実態が世界の人々に向けて知らされたこと、そして牧野清著「改訂増補 八重山の明和大津波」がご紹介されたことは、先人が残された津波教訓の位置づけと共に、郷土の誇りと言えるのではなかろうか。

琉球大学工学部 仲座栄三